一言で言うなら拍動(ビート)の強度を表す心拍強度(Beat Strength)です。BSが高いほど心拍強度が大きいと考えます。
またこのBSは血流の振幅に比例します。このためBSは血流の振幅と考えて差し支えありません。BSが大きいと血流の振幅が大きいと考えられます。
血流の振幅が大きいということはどういうことかということを簡単に説明します。
以下の例では、似たような血流平均値をもつ血流マップに視神経乳頭のBSを数値化した例です。
血流の平均値に差異はありませんが、左の例は、右の例に比べ血流の振幅が大きくなっています。これら同じ平均血流を供給するため心臓では、心拍の強度を変化させて末梢側に血流を届けているのです。
左側では心拍強度(BS)を上げ振幅を大きくする必要があり、逆に右側は左ほど負荷を上げることなるスムースな血流を供給できています。これらの状態の主な違いは流路の血管の構造であったり血液自身の粘性に起因する抵抗性です。血管の構造などは加齢性の変化によるものが大きいのかもしれません。BSが高い(血流振幅が大きい)ということは、心拍の強度を上げて負荷が大きくなっている状態をさします。
炎症(inflammation)が発生した個所では、血流が通常より多くあることは観察されることはありますが、浮腫のように逆に血管が圧迫されるような状況では思ったほど平均血流が上昇せずに血流の振幅だけが大きくなる場合もあります。これは栄養の供給不足に陥っている個所に血流を届けようとして負荷を上げている状況で、BSを観察することで観察個所の血流の負荷状況を確認することができます(参考文献1)。血流の流れやすさを観察するには抵抗性を確認することがよいかもしれません。抵抗性を観察する場合には、BSを平均MBRで除したBOM(=BS/MBR)を使用します(使用例:BOMを用いた網膜血管の閉塞状態を観察した臨床報告、参考文献2)
BSの計算方法について
BSは従来のBOSなどのように心拍検知を必要としません。その代わりスパースモデルを適用した周波数分布を予測する技術を用いて、周波数解析(time-frequency analysis)を行います。この得られた周波数分布のうちパワーが最大となる成分をBSと定義し計算しています。詳しい計算方法は参考文献3をご参照ください。
BSは心拍検知を必要としていないので、これまで心拍が安定しない波形解析できない血流データでも血流動態の客観的数値指標となる心拍強度BSを得ることができます。これまで心拍数が高いマウス・ラットなどではBOSなどの抵抗性の検討が行えませんでしたが、このBSの技術を適用することで心拍数の高い動物でもBSやBOMの計算が可能になり抵抗性の検討が行えます。BSの技術では9Hz程度までの周波数に対応可能です。心拍数でいうと540bpmまで安定してBS,BOMなどの数値が得られます。
参考資料
- Shinsuke Kikuchi, Keisuke Miyake, Yuki Tada, Daiki Uchida, Atsuhiro Koya, Yukihiro Saito, Takehiko Ohura and Nobuyoshi Azuma
Laser speckle flowgraphy can also be used to show dynamic changes in the blood flow of the skin of the foot after surgical revascularization.
Vascular, doi:10.1177/1708538118810664, 2018. - Ryo Tomita, Takeshi Iwase, Marie Fukami, Kensuke Goto, Eimei Ra and Hiroko Terasaki
Elevated retinal artery vascular resistance determined by novel visualized technique of laser speckle flowgraphy in branch retinal vein occlusion
Scientific Reports, 11(1), 1-11, 10.1038/s41598-021-99572-7, 2021 - Kenji Okamoto, Noriyoshi Takahashi, Tatsuhiko Kobayashi, Tomoaki Shiba, Yuichi Hori and Hitoshi Fujii
Novel superpixel method to visualize fundus blood flow resistivity in healthy adults
Scientific Reports, 13, doi:10.1038/s41598-023-33450-2, 2023.