一言で言うなら眼球内の網膜血流の抵抗性を表す数値です。TCRが高いほど網膜血流の抵抗性が高いと考えます。
LSFGでは心拍検知を必要としない新たな抵抗指標としてBOMがあります。BOMは任意の場所の血流の抵抗性を数値化しますが、TCR(Total Capillary Resistance)は視神経乳頭上の大きな血管(動脈、静脈を含む)の領域のBOMです。あえて場所を視神経乳頭上の大血管(下図左)にすることで、眼球に入って出てくるまでのトータルの血流の抵抗性としてTCRを定義しています。また網膜の血流を厳密に定義するためにRFVのように(下図右)網膜大血管部分の血流MVから背景の血流MTを引いた数値を使って厳密に計算しています1。
このようにTCRは視神経乳頭(ONH)の大きな血管から測定される血流と毛細血管の間での抵抗性の違いを表しており、網膜の血管抵抗を推定するために用いられるパラメータです。
臨床的な応用としては、CRVO2や緑内障3などです。
- CRVOでの応用
以下のグラフはCRVO症例を報告された論文2からの抜粋です。健常者と、CRVO患者の疾患眼、および瞭眼群のTCRの差異をまとめられたものです。
CRVOの疾患眼のTCRが健常眼、瞭眼に比較して有意に高くなっていることが分かります。また健常者とCRVO眼のTCRのカットオフ値(=0.93)が報告されており、TCRはCRVOの良好な指標となり得ることが示唆されました。
- 緑内障での応用
論文3によると、TCRが高い場合、網膜血管が硬くなる傾向があり、この硬さが進行性の視覚機能低下と関連していることが示唆されています。特に、視覚的機能低下が進行するリスクを示す要因として、TCRが重要とされています。ただし、TCRの高さが既存の視覚機能低下の程度とは必ずしも強く関連しない場合もあり、これは初期段階でのリスク評価に有用とされています。
最近の報告
- Kenji Okamoto, Noriyoshi Takahashi, Tatsuhiko Kobayashi, Tomoaki Shiba, Yuichi Hori and Hitoshi Fujii
Novel superpixel method to visualize fundus blood flow resistivity in healthy adults
Scientific Reports, 13, doi:10.1038/s41598-023-33450-2, 2023. - Makiko Matsumoto, Kiyoshi Suzuma, Fumito Akiyama, Kanako Yamada, Shiori Harada, Eiko Tsuiki and Takashi Kitaoka
Retinal Microvascular Resistance Estimated from Waveform Analysis Is Significantly Higher With a Threshold Value in Central Retinal Vein Occlusion
Translational Vision Science and Technology, 9(11), 4, doi:10.1167/tvst.9.11.4, 2020. - Stuart Keith Gardiner, Cindy Albert, Brad Fortune, Steven L Mansberger and Grant Cull
Retinal vessel pulsatile characteristics can predict functional progression in glaucoma suspects
Investigative Ophthalmology and Visual Science, 64(8), 3778, 2023 ARVO Annual Meeting abstract, 2023.